電車における回顧録
先日京都に行くために電車に揺られていたら
なぜかとんでもなく昔のことを思い出した。
京都で働きだしてたぶん3年目くらいだったと思う。
滋賀に帰省していた私は京都に戻るために湖西線に乗り込んだ。
湖西線とはその名の通り琵琶湖の西側を走るJR線で
私のふるさとは湖西線の最初の駅にあり
北陸線と繋がるお役目的にはけっこう重要で便利なところにある。
(でも悲しいかな過疎化まっしぐらの超田舎です)
京都まで1時間半。
時折車窓を眺めながら文庫本を読んでいると
出発して数駅目くらいで一人の男性が通路を挟んで隣側の座席に座り
とても明るく気さくに声をかけてきた。
ベージュのコットンパンツに上着は・・・忘れた。
ふらっと旅行に来た感じのカジュアルな服装。
「失礼ですがおひとりですか?」
(え?)
「僕もこれからひとりで大阪まで帰るんですけど
いやぁ!こんなところでまさかこんな美人に会えるとは思っていなかった!」
(新手のナンパ?なんて調子のいい!)
「長い時間をどうしようかと思っていたんですよ。もしよろしければ降りられるまでお話ししていただけませんか?」
(えーーー!ウソでしょ?!)
一車両には5~6人しか乗っていない状況で
しかも私はたったひとりだったこともあり
びっくりしたしものすごーーーく警戒した。
でもその男性は
なんというか
まるでアイスの棒に「当たり」の文字を発見した子どものように無邪気に本当に嬉しそうに楽し気に話しかけてきた。
メガネの奥の目は人懐っこくて笑った顔は素朴な好奇心に満ちていて
しかも悪気なく自分のペースに巻き込む技量に長けているというか
全くの他人の私にもいい人具合が透けて見えて
私は警戒心を解くのに数分もかからなかった。
最初に簡単に自己紹介をし出した。
通路挟んで斜めに座りながらの
ヘンテコなシチュエーションのなかで
その男性は
「○○社の記者なんです」
と誰でも知っている某有名な週刊誌の名前を言った。
あーなるほど。
どうりで警戒心を取り去るのがうまいわけだ。
「長浜市で{男はつらいよ}のロケがあってマドンナの後藤久美子さんへの取材のために来て・・・」
「へ~すごいですね!」
私も京都の○○という会社で働いていて滋賀の実家から戻るところで・・・
というようなことをしゃべったと思う。
「何を読んでいるのですか?」
「○○です」
好きな本や作家の話や趣味の話。
京都で降りるまでの約1時間
その他にどんなことを話したかほとんど覚えてはいないけれど
話題の豊富さから垣間見える頭の良さと
会話を引き出す話術とリアクションの優しさで
思いがけずとても楽しい時間になったことだけは確か。
そして別れ際に
「おかげで楽しい時間でした。出来上がった週刊誌をお送りしますから」
と名刺をくださりにこやかに手を振り別れた。
それからまた慌ただしい日常に戻りそんなことがあったこともすっかり忘れかけていた頃
勤務先に私宛に短いメッセージと共に一冊の週刊誌が送られてきた。
あ!と思い出しなぜか感動した。
たった1時間お話ししただけの出会いなのに
ちゃんと覚えていて約束を果たしてくださったことがなぜかとても嬉しかった。
やっぱり誠実な人だったんだ
いい出会いをしたという答え合わせのようで嬉しかったのだと思う。
この後日談がなければこの思い出はきっと忘れ去られていた。
その後はというと?
ドラマティックな恋の始まりにはならなくて
会うことも連絡することすらなかったが
もし
「わざわざ本当に送ってくださるなんて!ありがとうございました」
なんて連絡していたらどうなってたやろうな~と
思うこともあったけれど
それをしなかったのも今に繋がるための現実。
湖西線のひとり旅で話しかけてきた人は
・・・というよりもそんなふうに見知らぬ人から話しかけられて
旅のお供?をしたのは後にも先にもその時だけ。
これでも知らない人にはめちゃくちゃバリアを張る私が
あんなふうに楽しく話した一時間はとても貴重な経験だった。
その証拠に
一晩寝たらなんでも忘れてしまうのに今でも不意に思い出すということは
非日常の開放感がそうさせたのか
偶然の産物に人はときめき
今もなおキラキラと光を放つ思い出となってしまっている。
旅というのは本来そういうものなんでしょうね。
そして出会いは必然ということです。
日々いろんな方をお迎えしていると
会話もせず食事するご夫婦やらしまいにはケンカをしだすお客様やら・・・。
旅って本来楽しむためのものなのにね。
たった1時間でも思い出に残る旅もできるのですから。
皆さまもぜひ愛あるいい旅をお楽しみください。
この話を他人にするのはおそらく初めてです。
ゆえに主人も知らない。笑
なぜか思い出したので書いてみました。